高い商品を売るのは善?悪!?

猪飼智弘

2017/11/16

今日も読者からのエピソードをご紹介したいと思います。

販売職ならば一度は思った事があるかもしれない「高い商品を売るのは良い事なのか」というお話です。

男性42歳
販売業

サラリーマンは雇われて何ぼなので、経営者の理念や経営方針に従うのが前提になります。
分かっていたつもりでしたが、初めて販売職に就いた時、物を売るというのは少し事情が違うことを知りました。
それまでは事務職だったのですが、お客様と接する販売業に憧れを持ち、眼鏡屋さんに転職した時のことです。 一見そんなに忙しそうではない店の雰囲気に、ゆったりとした接客を勝手に予想していましたが、実情は全然違いました。

眼鏡屋って、暇そうに見えても意外とお客様の来店がちょくちょくあり、眼鏡を作りにくる方はもちろん、使っている眼鏡の型直しや修理に来る方もいました。
店内には物凄い数の眼鏡が並んでいて、いろいろな眼鏡をかけてみるのもお客様にとっては楽しみの一つです。
販売員はそんなお客様を優しく見守り、お声掛けがあった時だけ傍に行って説明をするものと思い込んでいたのですが、現状は全く違いました。

どんどんお客様に話しかけ、少しでも高いものを売りつけることが売り上げにつながる!というのが暗黙のルールでした。
私自身は正直ブランド物など、値の張る物には信頼感があるので大好きですが、すべての人がそうというわけでないのも承知しています。

中には安い物にこそ価値があると思っている人もいるので、そういう人がお客様だったら好きなように安い眼鏡を買ってくれればいいと思っていました。
でもそれではダメだと店長が言うのです。

いかに値の張る眼鏡が掛け心地がいいかをしっかり説明し、少しでも高いものを購入して頂けるように説得するのが販売員の仕事だと教えられました。
お客様の理念を曲げてまで高い眼鏡を買わせないといけないのかと思うと、なんだか胸がモヤモヤしてきました。

しかし数字は恐ろしいもので、一か月どころか毎日の一人一人の売り上げがデータ化されて全店どこの支店でもパソコンから見れるようになっているのです。
安い物が好きなお客様はどうぞお好きにと言っていられない現状に心が病みそうでした。

サラリーマンなので不服があれば辞めればいいだけですが、生活を考えるとそうもいきません。
やむを得ず考え方をシフトチェンジして、いかにお客様に高いものを買ってもらえるかの試行錯誤の始まりです。

安い眼鏡しか買わないと公言するお客様にも、一度ブランド物の眼鏡を掛けてもらい、掛け心地の良さを体感してもらいます。
またしつこくない程度に商品の違いや見た目の印象などを説明し、とにかく最初に選びかけた一番安い眼鏡より、少しでも高い物を買うように勧めます。
本当はとても心苦しく、私がお客だったらこんな販売員うざすぎる!と思うのですが、その一番嫌なことを自分がしないといけないことが辛かったです。

しかし眼鏡はフレームを選ぶだけでは終わりません。
その後はレンズ選びに入ります。

スマートフォンなどたくさんの電子機器に囲まれて生活しているので、紫外線カットだけでなくブルーライトカットなど、レンズも本当に多種多様です。
ここでもまた付加価値の付いた高いレンズをお勧めしなければ、自分の売り上げアップにつながりません。
散々アピールしてやっと高いフレームに決めてくれたお客様に、今度はレンズのセールスです。

お客様によってはレンズもいろいろあるの?また追加料金がいるの?とあからさまに嫌な顔をする方もいて、内心当然だと思っていました。
しかしそこでひるんではいられません。
とにかく心を鬼しにて堂々とセールスをしないとこの勝負に負けてしまいます。

心を強く持ち一生懸命売り上げだけを考えて仕事をした結果、店長からは褒められましたが、自分がこの仕事に付いていけなくなりました。
結局一年で退職しましたが、同じサラリーマンでも販売業だけは止めようと心に誓いました。
あのころを振り返ると、まるで店長からのマインドコントロールにかかっていたような気がします。

お客さんの価値観を変えるのも接客業の一つ

安い商品を求めているお客さんに対して、少しでも高い商品を勧めなければいけない接客に気が引けてしまうと言うのも、確かに頷けます。

ただ、少し値が張ったとしても、高くて良い商品を勧める事によって、お客さんが今までとは違った眼鏡のかけ心地を体験できるのであれば、高くても良い商品を勧めた方がいいでしょう。

お客さんは今までに、かけ心地の良い眼鏡をかけた生活をした事がなかったので、眼鏡は安い方がいいに決まっているという価値観を信じ込んでいるだけです。

その価値観を、接客という仕事で変えてあげるだけで、お客さんの生活はとても良くなる可能性だってあるわけです。

結果、高い眼鏡を買う事によってお客さんの生活の質が向上すれば、また同じ店で買おうと思って頂けるでしょう。

「高い商品を売る」のが悪いわけではありません。

お客さんの得られる価値が、価格より高いと思ってもうらう事ができれば、値段が高くてもお客さんは納得します。

つまり、接客というのは高い商品を売りつける事が目的ではなく、お客さんにその商品の価値を感じてもらうサポートをするのが役目という事です。

そのサポートによって、より高い商品を販売する事ができれば、お店の業績アップにも繋がり、お客さんも満足する事ができるので、結果的に双方がWin-Winの関係になるでしょう。
 

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